新型コロナウィルスの影響で、本来あるはずだった『綺伝』は予定通りの開演が消えてしまった。
今もなお観劇を普通にするのが難しい中ですが、2020年7月26日、綺伝から改変になった科白劇をステラボールで昼公演を観劇して来た感想をつらつらと語っていきたい。
またネタバレがあるため、この時点でまだ観ていない方はこの先を読み進めるのをお勧めしないので、自衛して下さいね。
2022年 綺伝いくさ世の徒花の感想はこちら
目次
開演は講談師 神田山緑さんの講談と他本丸の特命調査報告
いつもの刀ステと違うのは、舞台の端に講談師の席があること。
オープニングは山本さんの講談からの始まりでした。
維伝は堀川君が一人で幕末の土佐を一人語りし、正史である文久土佐と幕末について説明があったけれど、今回は講談と挨拶後は刀剣男士たちがソーシャルディスタンスを保ちながら一列に、そして向き合うことなくセリフとしぐさで表していました。
「科白劇」というから、てっきり朗読劇のような感じで演じるのかと思えば、距離を開けての舞台だった。
今回の部隊長である歌仙が持っていたのは他本丸の慶長熊本の特命調査の報告書。
それによると、大まかな流れは同じだけれど、細かいところに違いがあるという。
今回の舞台はすでに慶長熊本の特命調査は終わっていて、その記憶を追っていく。
ストーリーは他本丸の慶長熊本の特命調査をなぞります。
が、途中途中でステ本丸の感想というか実態をキャラクターたちが入れてくるので、途中でステ本丸の物語なのか他本丸の物語なのか少し悩まされる部分もありました。
そして講談師のポジションは新しい「刀装」。
ちょくちょくメタ発言が入るのと、ちょっと困ったときは刀剣男士からも講談師に話しかけられるというオプション付きでした。
ゲームの慶長熊本に入る前のストーリーと入った後の補足が描かれる
基本的なストーリーの軸は、ゲームであった特命調査「慶長熊本」。
ゲームでは古今伝授の太刀からの入電ですぐ現地へと向かい、熊本城城下町を進んでいく流れだったけれど、今回のストーリーにはそこに至るまでの内容が盛り込まれていました。
- 地藏行平がガラシャを「姉上」と呼ぶまでに至ったわけ
- キリシタン大名たちは皆、自分たちが歴史改変をしている自覚がある
- ガラシャからこの放棄された世界が始まったことを、ガラシャ自身が知っている
- 細川忠興が身なりを変えて、熊本に来ている
- 黒田孝高が刀剣男士の存在を広めている
順不同。ちょっと抜けているかもだけれど、この辺りかな…。
地藏行平がガラシャを「姉上」と呼ぶまでに至ったわけ
ゲーム内ではすでに地藏行平はガラシャのことを「姉上」と呼んでいた。(ゲーム内回想「花守」参照)
なぜそこに至ったのか、それが科白劇では描かれていて、ちょっと感動。(ゲームだといきなり「姉上」って呼んでましたもんね)
ガラシャと逃亡中に何故そのように呼ばせるかの理由が描かれていたんですが、実際にゲームのストーリーと比べるとその理由がかわいいなぁって思います。
彼女は地藏に姉上と呼ばなければ刀剣男士である地藏に対して、一緒に来ることを認めないって気の強いのもガラシャ可愛い。
そう言えば、地藏行平はガラシャの弟の「弟ではない何か」になりかけていたのだろうか。
地藏行平は公式の刀剣男士で唯一歴史改変に手を貸しているんですよね。
今回の獅子王のセリフで「こいつら鵺みたいだ」というものがあって。
文久土佐藩の朧に対して「刀剣男士と同じ仕組みが使われている偽物」が、踏襲されているように思えました。
あくまで他本丸の記録って設定だから、もしかしたらステ本丸が体験したあの文久土佐藩とか小田原は経験してなかったのかなー…と。経験していれば、歴史上の人物が刀剣男士の存在を知っていてもそこまで驚かないのでは…なんて思ったり。
刀剣男士の本能は「歴史を守ること」だ。
また南海先生のセリフで「物としての本能が強い」というのがあるけれど、「物としての本能」ではない「人としての本能」という人情的なものを得てしまうと刀剣男士と言えなくなってしまうのだろうか。
地藏行平は「裏切った」といい、古今伝授の太刀は「助けたい」という。
ゲームでの回想での『いくさのあと』では「人の心とはいかなることか」と考えようとしたところを裏切るからやめておくという地藏のセリフがある。
キリシタン大名たちは皆、自分たちが歴史改変をしている自覚がある
今回、ガラシャの周囲にいるキリシタン大名たちは自分自身の未来を「歴史を遡るもの」によって見せられ知っていた。
大村純忠はガラシャに助けられたとして、彼女を守ることに重きを置いていたし、黒田孝高はそもそも自分が円環していることを自覚し、また三つら星の記憶を他時間軸の黒田官兵衛の記憶として持っていた。
やばい。
本当、三つら星の映像持ってくるの本当反則だと思うの。
ガラシャからこの放棄された世界が始まったことを、ガラシャ自身が知っている
自分が本来ここにいてはいけないことを自覚しているから、地藏に最初私を討つのかと言ったんだよな…って思っています。
1595年のガラシャは大阪の細川屋敷に本来ならいるはず。
ガラシャは忠興に幽閉されている間に歴史修正主義者と接触し、自分の最期を知った。
結果忠興の愛を試す思いが放棄された世界へのトリガーになってしまったよう。
細川忠興が身なりを変えて、熊本に来ている
これは科白劇独自の設定。
放棄された世界はifの世界なので、この世界ではガラシャがキリシタンに入信したところから、秀吉の不興を買い細川家が断絶の道へと進んでしまったことになっていた。
それでガラシャのことを憎い敵として討ち果たしに来たという状況だった。
正史では忠興は関ケ原の戦いに参加しているし、義伝でもその通り。
ここで改変の影響が出てしまっていた。
また、姿が他本丸の歌仙が気付かないほど見ずぼらしい姿になってしまっていて、最初大河ドラマの1~2話くらいに出てくる主人公が自ら泥塗ってボロボロになった姿を100倍くらいひどくした感じじゃんって感じた。
そりゃあ歌仙だって分からないよ…
結果熊本で討たれてしまう。
ゲームで細川忠興の名前は出てこなかったけれど、最後のボス戦で歌仙がガラシャに「忠興様の元へ返ろう」と言っていることが、原作では明言されなかった放棄された世界の時間軸では「細川忠興がすでに死んでる」説が公式から回答されてしまったんだなって思いました。
黒田孝高が刀剣男士の存在を広めている
彼だけは違う時間軸の黒田官兵衛の記憶を有しているし、刀剣男士とは何ぞやというのも分かっているんですよね。
放棄された世界は一定の起点から終点までを何度も繰り返すという。そうしているうちに記憶をたくさん持つことになったようだし、最初大友宗麟が最大の敵だと思っていたけれど、軍師としての彼が一番厄介な不安要素だった。
ちなみにキリシタン大名としての姿が極の長谷部の衣装に類似していて、今回彼は出ていないけれども「長谷部…お前…」って思いながら見ていました。
山姥切長義が成長している
今回長義君が大友宗麟と酒の話をするときに「酒は飲めない」と言っていた。
「飲まない」としきりに慈伝で言っていた彼が!
「飲めない」って言えたーーー!って思って嬉しくなっていた。今回ばかりはマスクあって良かった。
私多分マスク無かったらすごく顔ニヤけてたと思う。
あと殺陣がすごく早くなっていたんです。
形もまんばちゃんに近い形になっていて、本当、ちょっと泣きそうになりました。
クラシカルな椅子に座りつつ足組んでる彼は、ちょっとヤバかった。
恰好良すぎでは…!?
ガラシャが美しすぎるのと、後半は宝塚だった
七海ひろきさんは今回の公演で知ったんですが、本当美しかった…!
宝塚の男役をずっとされていたとのことだけれど、スタイル良くて美人ですごい、本当すごいしか感想が出てこない…
後半第2形態がすごく、18世紀フランスを彷彿とさせる出で立ちでした。
薙刀じゃなくてサーベルだったらまさにベルばらだった…
白い軍服に白いズボンに編み上げブーツ。もう、すごい。しかも胸元と袖部分は金の蛇のモチーフなのに、着こなすのすごい…!
歌仙とガラシャの邂逅
ガラシャ自身、花と呼ばれるか蛇と呼ばれるかを確かめたかった。
忠興とガラシャがお互い「あなたが憎くて憎くて愛おしい」という言葉を放っていて、こじれた両想いが辛い…
忠興がガラシャを殺そうとしたけど殺せなくて、でもその隙に忠興が討たれれてしまう。
歌仙も元主の死に目に出会ってショックを受けていて。
この後闇り通路のゲーム本筋へと戻っていくんだけれど、そのときみんな通路で迷ってるの可愛い…
結果最後にゲームの背景の襖が映像で出されて、ガラシャが歌仙に「あなたが私の鬼なのね」って言っていて。
自分のことを「蛇のような女」と称した忠興のことを「鬼」と定義していたけれど、彼は既にこの世になくて、忠興の刀であった歌仙を忠興と見なしていた。
細川忠興の物語を強く影響を受けているのは「歌仙兼定」。
その彼を鬼として忠興として、忠興が出来なかったガラシャを討つことを成功させます。
その時に「あの人にとってもさぞ自慢の刀だったでしょう」って言われるんですが、その時舞台の端で武士姿の忠興が歌仙を持って満足そうにしている姿がある。
義伝で「わしの自慢の刀じゃ」って言われてるのを奥様にも言われるって、本当、歌仙嬉しかっただろうな…
他本丸とステ本丸では調査内容に若干違いがあるらしい
常々思っているけれど、ステ本丸の調査内容の難易度は「超難」だと思っている。
今回は他本丸の報告書を見て、ちょいちょい自本丸の話を入れてくる流れだったけれど、獅子王が「小烏丸が言っていたけれど、うちの本丸は厄介な調査を任されている」云々というのを言っていた。
たまに「ここうちと違う」みたいなことを言っていたりもしたし、どこがどう違うのかは本来やるべきだった綺伝がまた形を変えて発表されたらなぁと期待したい。
ちなみに最後、他本丸の報告書を歌仙から長義君が受取ろうとしたとき、講談師の「ソーシャルディスタンス!」という声に、普通に渡さず歌仙が長義君に投げ渡したんだけど、うまく受け取れずに落としちゃったっていうシーンがあって。
その時、ちょっと不満そうに長義君が歌仙のこと恨めし気に見るのに笑っちゃいました。
星元さんのメイクが前半と後半で変わっている
地藏のメイク、星元さん自らされているそうで。
これはTOHOのブルーレイ/DVD発売記念トーク配信で仰っていたことでしたが、ガラシャが闇落ちした後の地藏のメイクのアイシャドウをわざわざ色変えていると…すごすぎません?
舞台で気づかなかったし、言われるまで全然気にならなかったけれど改めて見直すと少しやっぱり変わってる…!
映像にしないと気づきにくい変化も、プロとしてこだわるのすごいって思いました。
まとめ
今回の殺陣、歴史修正主義者は幕に映し出されている状態での、男士たちが舞台上で一人で殺陣をするor走り去り際に接触しないように演武する形をとっていたんだけれど、講談師が説明をこぎみ良く入れてくれて、状況判断しやすくなっていました。
獅子王君が小烏丸のモノマネしていたり(しかも似ている)、キリスト教の「右の頬を殴られたら、左の頬を差し出しなさい」の話を長義君が出して来たり、細川組の回想の一部(歌についての)が盛り込まれていたりと、細かい部分もすごくボリュームがあった。
鶴丸いないと、日替わりネタ無いんだな…って思いながら、ステの鶴丸の存在すごいなって改めて思いました。
今回は何より元・宝塚の実力が遺憾なく発揮されていて、しぐさの一つ一つとっても指の先まで美しいし、彼女だけ歌パートあるし、闇落ちしたときなんてストレートヘアからウェーブに変わってザ・宝塚みたいな感じになっていたり、本当すごかった。あと着こなし。
純白の改造軍服に金の蛇があしらわれ、更に純白のズボンにブーツをインしても違和感なく圧倒的な美しさと存在感を舞台上に演出してくれるの、本当すごい。
他の人が同じ衣装来たら事故だよ…
綺伝だったら、多分歌仙とかみんな真剣必殺あっただろうなーとか、遡行軍・山姥切国広疑惑がまた出てたりしたのかなーとか、色々思う所があったりもしましたが、この世の中の状況で形を変えつつも演劇をして下さったスタッフ・役者さん一同に感謝を。
いづれまた、歌仙が第3部隊を率いてステ本丸のストーリーを背負ってくれるのを待っていたいと思いました。